ロイヤル・アルバート・ホール、2023年BBCプロムス・プロム30
ジョン・ウィルソン指揮、シンフォニア・オブ・ロンドン ピアノ:アリーム・ベイゼムバイェフ 指揮者、ジョン・ウィルソン氏©BBC/ Chris Christodoulou BBC Proms at the Royal Albert Hall Prom 30: Rachmaninov’s Second Piano Concerto The Sinfonia of London conducted by John Wilson, Piano: Alim Beisembayev BBCプロムスほど一日の疲れが癒せ心楽しく過ごせる場所はそうそうない。日の長い夏の夜、街の人々がビール片手に気楽に一流のクラシック音楽を楽しめる。それも威風堂々とした歴史のある荘厳な建物、ロイヤル・アルバートホールで。座席まで飲み物を持ち込める気軽さは伝統がある故の余裕なのか。家族連れや、夫婦、恋人、気のおけない仲間たちとクラシック音楽を楽しむロンドナー達から沸き立つ高揚感が、入り口の退屈なカバン・チェックの為に列をつくっている時からも伝わってきて一人で行った私でさえも心ウキウキしてきた。 今宵の演目は24才という若さでこの世を去ったリリー・ブーランジェー作曲の「春の朝に」から始まった。5分ほどの短い作品だが宝石がキラキラ輝いているような印象のこの曲はまるでブーランジェ―の人生のようだ。週日の朝、これから出勤するときのような元気の良さを感じさせる作品だ。シンフォニア・オブ・ロンドンの生でなければ聴くことのできないクオリティの高さを肌で感じ幸福感で身震いした。各楽器奏者から一分もたがわず機微に触れるような音を引き出す指揮者、ジョン・ウィルソンの才能にも恐れ入る。 2曲目のラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は、ピアノの音を押し返すかのようにオーケストラが怒涛のごとく流れこむような始まりが印象的だった。高度なピアノ技術を必要とするこの曲はベンジャミン・グロブナーによる演奏予定だったが、病の為急遽出演できなくなり、カザフスタンの新星、2021年のリーズ国際ピアノコンクールで一位に輝いたアリーム・ベイゼムバイェフが、ピンチヒッターとして登場した。彼の完成度の高い技術とどことなく高潔さを漂わせるステージプレゼンスに観客は虜になった。BBCプロムスで弾くのが初めてというアリームには今後もまた登場してもらいたい。そして次回は高技術に加えて遊び心を発揮させ異なる側面も見せて欲しい。ともすればピアノを上回るように勢いのあったオーケストラからは、ティンパニーの醸し出す精緻でデリケートな響きと振動に身震いさせられる時などもあり、彼らの捻出する音の幅の広さに感嘆した。ピアノのアンコールはストラヴィンスキーの「火の鳥」から「凶悪な踊り」が披露されたが、演奏後観客からの拍手が鳴りやまず休憩時間に入れないのではないかと思うほどだった。 休憩後には近代イギリス作曲家のウィリアム・ウォルトンのドラマティックでメランコリックな交響曲第一番。フルートも木管もヴァイオリンも打楽器も全てが際立ちそれでいてバランスが取れていてオーケストラの個々の奏者の素晴らしさとそれを引き出すウィルソンの巧みさに心震わされた。アンコール曲はジャズのフレーバーの入ったガーシュインのプレリュード2番をウィルソン流にアレンジしたもので特にオーボエ奏者の乗りに乗った演奏が心に響いた。とにもかくにもウィルソンのきびきびした引率力に感嘆した夜だった。それでいて彼が心から楽しんで指揮しているのも手に取るようによくわかった。 アンコールが終わった後も観客がなかなか帰るそぶりを見せない。指揮者もオーケストラも観客もみんなが楽しんで夜が更けていくのがBBCプロムスの醍醐味だ。なんとリラックスできる楽しい夜だろう。BBCプロムスは私が最も好きで最も羨ましくもある英国の伝統だ。 シンフォニア・オブ・ロンドンとピアノ奏者、アリーム・ベイゼムバイェフ氏©BBC/ Chris Christodoulou Prom 30の演奏者たち©BBC/ Chris Christodoulou 指揮者、ジョン・ウィルソン氏とシンフォニア・オブ・ロンドン、及びピアノ奏者、アリーム・ベイゼムバイェフ氏 ©BBC/ Chris Christodoulou 会場のロイヤル・アルバート・ホール©BBC/ Chris Christodoulou
ジョン・ウィルソン指揮、シンフォニア・オブ・ロンドン ピアノ:アリーム・ベイゼムバイェフ 指揮者、ジョン・ウィルソン氏©BBC/ Chris Christodoulou BBC Proms at the Royal Albert Hall Prom 30:...