『Pluto プルートゥ』ロンドン公演:バービカンシアター

16.02.2018

 

'Pluto' at the Barbican Theatre from 8 to 11 February 2018

 

Sidi Larbi Cherkaoui/Bunkamura Theatre Cocoon, Pluto, credit Naoki Urasawa, Takashi Nagasaki, Tezuka Productions

 

 

これまでいくつもの舞台を観てきたがこれ程、衝撃を受けた舞台も珍しいのではないか。

漫画家、浦沢直樹氏の原作を元にベルギー生まれの振り付け師/演出家のシディ・ラルビ・シェルカウイ氏の舞台化が実現した。シェルカウイ氏の舞台は以前いくつも観てきているが、彼の独特の世界観、照明、舞台セットが美しく、その空間の中、俳優やダンサーが軽やかな動きでストーリーを表現していく。

 

「プルートゥ」もその例にもれず、ますます彼のアーチスト、クリエーターとしての実力を存分に見せつけるかのようにCGを駆使したプロジェクトマッピングという手法を取り入れ、演劇の舞台なのに漫画の要素を取り入れた全く新しい、まさに哲学的テーマを含むストーリーと映像とダンスと音響が見事にコラボレートされた斬新な舞台に仕上がった。

 

原作が漫画というのを意識し、舞台いっぱいの漫画の枠の中に浦沢氏の原画がプロジェクターで映し出され、ストーリーを補足する役割もしている。異なる形をした数個の白いブロックはテーブルになったり、歩道になったり、壁になったり、プロジェクターで漫画を映し出す場所になったり、コンピューターパネルになったりと多様な役割を果たす。そしてそれらを数人のダンサーがしなやかな動きでシーンごとにスムーズに動かし、そこに不自然さや違和感は全くない。全員が音もなく素晴らしいタイミングで動いていく。

 

この舞台は今年1月6日文化村シアターコクーンを皮切りにヨーロッパツアーを行っている。シディ・ラルビ氏は元々手塚治虫ファンでもあり、2011年にロンドンと東京で『テヅカ TeZukA」というダンスで表現された舞台を行った。その他の少林寺の僧の身体能力を生かした舞台「Sutra』もロンドンで公演、シェルカウイ氏の独創的な舞台の世界を世に知らしめ、今や注目すべき演出家/振付師と言えるかもしれない。

 

Sidi Larbi Cherkaoui/Bunkamura Theatre Cocoon, Pluto, credit Naoki Urasawa, Takashi Nagasaki, Tezuka Productions

 

 

「ロボットに心は宿るのか?」

 

漫画といえど、浦沢氏の作品は哲学的でまるで人々の潜在意識へ問いかけるかのようであり、舞台のストーリーとしてはシェイクスピア並みに深みと重みがある。「憎しみの連鎖」それがメインテーマ。原作を読んだことがない人がこの舞台を観ると雷にでも打たれたかのような衝撃が走るのではないか。外国人観客は英語字幕を追いながら舞台の上で繰り広げられる世界を必死に理解しようとする。ロボットが人間になる?!これは人間対ロボットの話なのであろうか?もしロボットにも人間のように良心があり、憎しみが芽生え、人間のようならば、人間対ロボットではなく、もっとシンプルに最終的には「善と悪」という事になるのか?

 

原作『プルートゥ(PLUTO)』は小学館から出版されている全8巻の大作だ。浦沢直樹氏と長崎尚志によって手塚治虫原作『鉄腕アトム』の中の「地上最大のロボット」のリメイク版でありSF近未来漫画、累計発行部数850万部以上の売れ行きを誇る。

 

現代の私たち自身が体験している社会、近未来、人間とは何か?私たち人間はどうあるべきなのか?を問う作品であり、人間が持つ複雑な感情を手塚治虫氏は表現し、それを浦沢直樹氏が引き継ぎ、又、今回シェルカウイ氏が漫画ではなく、舞台としてそのメッセージを引き継いでいることはとても興味深い。2次元の漫画としての広がりには限界があるかもしれないが、これが3次元の舞台になり世界の人々の目の前で、生でメッセージを伝えられるということはとても重要なこと役割であると思う。

 

余談になるが、2016年はシェイクスピア生誕400周年記念の年でもあり、400年前の当時のシェイクスピアがいかに斬新な作品を作り出していたかを著者はJ News UKでも活躍するジャーナリスト、内田美穂の誘いで1年掛けて彼女と同行取材したが、現代の舞台人たちもそのシェイクスピアの当時の思いを引き継ぎ、最新のテクノロジーを取り入れた、新しい古典演劇に挑戦し続きていて、シェルカウイ氏の舞台を観た時にそれを思い出さざる得なかった。

 

 

漫画から舞台へ

限られた時間内で何を観客に見せ、どうメッセージを伝えるか

 

会場に入ると舞台全面に漫画のフレームが舞台セットとしてある。

 

天馬博士の一人息子だったトビオをひき逃げで亡くし、アトムが誕生する経緯を簡潔に紹介。

その時にじわじわと憎しみが生まれるのを表現する。

第39次中央アジア紛争で人々が死んでいくさまがプロジェクターされた漫画背景として映し出され、その前で役者が演技をする。

 

「憎しみの連鎖」

 

世界最高水準ロボットは地球上に7体存在し、アレキサンダー大統領とテディベアーのロボット、Drルーズベルトの陰謀によって、彼らの邪魔な存在になりうるロボットたちは次々に排除。ストーリーはたった2体、ドイツのユーロポール特別捜査官、ゲジヒトと日本にいるアトムのみが残っているというところから始まる。その中で第39次中央アジア紛争を生き残ったアブラー博士の存在は大きく、彼は自分が人間であると信じ込んでいるほど高性能なロボットであり、彼もまた、この紛争で自分の息子を亡くしている。

 

ロボットのゲジヒトの周りには数人のダンサーがまるで人形を操るかのような動作をして彼がロボットであることを表現。彼の妻、ヘレナにも同様である。使われている舞台セットに数個の異なる形の白いブロックがあり、これがダンサーたちの滑るような動きででシーンを変えていく。そうかと思えば、役者のセリフのリアクションを音響とダンサーが完璧なタイミングで表現、シェルカウイ氏の振付師としての手腕を感じる。

 

Sidi Larbi Cherkaoui/Bunkamura Theatre Cocoon, Pluto, credit Naoki Urasawa, Takashi Nagasaki, Tezuka Productions

 

 

ゲジヒトが世界水準ロボットの連続殺害の犯人を突き止めるべく、牢獄されているブラウ1589の元を訪れる。ブラウもまた高度な人工知能を搭載したロボットで、史上初、人間の憎悪を学習し、人間を殺したことのあるロボットであった。彼の機能は何も故障は見られず、彼がより人間に近いことを人間たちは恐れ、彼を死なせないように、しかし動けないように固定し、ただ生かされていた。そこでゲジヒトはアレキサンダー大統領とDrルーズベルトの陰謀へのヒントを得る。

 

実はゲジヒト自身、ある過去を背負っていた。その記憶はユーロポール特別捜査団によって消されていたが、それは毎晩悪夢として現れ、ついにその消えた記憶が蘇る。彼は妻のヘレナとの間に子供ロボットがいた。しかし誘拐され残虐に殺害され、その時彼には憎悪が生まれ、その誘拐殺人犯である人間を殺していた。彼は優秀なロボットであるため記憶だけを消され、調査員として存在し続けていた。

 

Sidi Larbi Cherkaoui/Bunkamura Theatre Cocoon, Pluto, credit Naoki Urasawa, Takashi Nagasaki, Tezuka Productions

 

「憎しみからは何も生まれない」

 

その頃、道端に倒れていた知らないおじさんをウランは親切に助けた。実はそのおじさんはアブラー博士に遠隔操作されたロボットであり、そこへウランを探しに来たアトムはそのおじさんに会ってしまう。アトムが自分の名前をおじさんに伝えた途端、彼は豹変。不意を突かれたアトムはあっけなく死んでしまう。ウランのあどけない、人を疑わない清らかな心に救われたおじさんだったのに。

 

花畑の抽象画を壁一面に描き、その絵は白いブロックを重ねた壁であり、絵はプロジェクターによって映し出されてた。森山未来氏の軽やかな動き、周りのダンサーとの息はピッタリだった。このシーンでも人を信用することが果たしてお愚かな事なのかを考えさせられる。

 

Sidi Larbi Cherkaoui/Bunkamura Theatre Cocoon, Pluto, credit Naoki Urasawa, Takashi Nagasaki, Tezuka Productions

 

 

「憎しみがなくなる日は来るのか?」

 

アトムの死の報告を受けるゲジヒト。彼もまた親切にした花売りのロボットによって簡単に殺害されてしまう。

花売りのロボットの打った銃声は劇場に大きくこだまし、観客の度肝を抜いた。それを知った妻のヘレナは何ともいいようのない感情に襲われ、人間はどうにもならない悲しみを泣いて晴らすという事を天馬博士から教えられ、初めて彼女は悲しくて泣くという事を学ぶ。このヘレナの思いつめた演技につい涙をそそられてしまった。

天馬博士は一度はアトムの修理を断ったものの、アトムに憎しみの感情を入れることによって、プルートゥと戦わせる事を決意。。。と話は続いていく。

 

プルートゥの生みの親であるアブラー博士が憎しみを爆発させ、プルートゥのエネルギー以上の反陽子爆弾搭載のボラーと化し、エデン国立公園下のマグマに突き進み地球を破壊しようとする。このマグマの表現は風船のように膨らませた大きな布にプロジェクターでマグマのような映像を映し出し、アトムやプルートゥ、アブラー博士がのみ込まれていくように工夫されていた。

 

Sidi Larbi Cherkaoui/Bunkamura Theatre Cocoon, Pluto, credit Naoki Urasawa, Takashi Nagasaki, Tezuka Productions

 

 

最終的にアトムはプルートゥに助けられる。それはプルートゥは花畑を描いたおじさんであり、ウランの心の美しさ、優しさに自分の心も動かされたからだ。一方、Drルーズベルトは用無しになったアレキサンダー大統領を殺害、自分もブラウ1589によって抹消された。

 

漫画の最後のページのシーンと同じ、戦いを終えたアトムがお茶の水博士に「憎しみがなくなる日は来ますか?」と聞くシーンで終わり、森山未来氏と吉見一豊氏の後ろには浦沢直樹氏のオリジナルの漫画が映し出され幕を閉じる。

 

Sidi Larbi Cherkaoui/Bunkamura Theatre Cocoon, Pluto, credit Naoki Urasawa, Takashi Nagasaki, Tezuka Productions

 

 

1つだけ気になる点は字幕。英語の字幕は漫画の吹き出しのような形であちこちに出てくる。しかし上の方に字幕が出たときは天井から降りてくる舞台セットと重なったり、字幕が出るタイミング、出ている時間の長さが微妙であったりし、場所によっては客席から見にくいときもあり、舞台上の役者の演技を見ながら字幕を追うには少々場所的に離れすぎる箇所もあり、日本人以外の観客には不便であったことは否定できない。ストーリーが重要だけに字幕の役割は大変大きいと思われる。

 

3時間と長丁場の舞台ながらロンドンの観客の集中力は素晴らしく、ほんの少しの情報をも漏らすまいという感じだった。舞台全体も1秒たりとも飽きる事がない、連続して物語が展開していった。そして一人一人の心の中に浸透していく想い。人種、性別、様々なバックグラウンドを超越し、1つのメッセージが万人に同じように受け止められることのできる作品。

 

浦沢直樹氏のストーリー、シェルカウイ氏の舞台演出/振り付け、文化村とバービカンシアターとのコラボレーションは見事だった。

 

プルートゥ

破壊と再生の星

今までの価値観を完全に無にし、新たな価値観を生み出す。

 

このようなメッセージ性の高い舞台を是非とも生み続けて頂きたいと心から願う。

もしかしたらシディ・ラルビ・シェルカウイ氏と浦沢直樹氏、それぞれの新たな価値観への挑戦が始まる時なのかもしれない。

 

そして手塚治虫氏はこの現在の人間のあり方をどう想うのであろうか。

 

 

 

 

 

 

シディ ラルビ シェルカウイ

http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/18_pluto/#comment

 

キャスト

http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/18_pluto/#cast

 

森山未來 アトム

土屋太鳳 ウラン/ヘレナ

大東駿介 ゲジヒト

吉見一豊 御茶ノ水博士

吹越満 アブラー

天馬博士 柄本明

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