ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)の『リゴレット』

21.02.2018

 

'Rigoletto' at the Royal Opera House

 

 マントヴァ公爵邸のセット©︎ROH.PHOTO by Mark Douet

 

 

『リゴレット』の初演は1851年、イタリア・ヴェニスにあるフェニーチェ劇場で行われたが、当時の観客に衝撃を与えた。それは、題材がスキャンダラスだったこともあるが、ヴェルディ自身が「革命的な」と称したとおり、従来とは全く異なる作曲思想や劇作術を取り入れたオペラだったからである。ヴェルディは、それまでのイタリア・オペラが歌手の歌い方、声に合わせて作曲されていたのに逆らって、ここでは作曲家の音楽性を優先し、彼の音楽が創り出すドラマに歌手は合わせて歌うべきだと主張し実行した。それ故、『リゴレット』には歌唱力を誇示する歌手の為に創られた形式的なアリアがなく、登場人物の人間関係や性格描写に焦点を充てて作曲された重唱を連続させている。また、前奏曲で登場するモンテローネ伯爵の呪いのモチーフが、リゴレットが彼に呪われていることを表す度に表れたり、マントヴァ公爵のカンツォーネ「La donna e mobile(女は気まぐれ)」を使ってスパラフチーレが殺したのはマントヴァ公爵ではないことを示唆させたり、劇の流れと音楽を見事に融合させている。さらに第3幕でジルダが愛するマントヴァ公爵のために死を選ぶ決断をする際の嵐のシーンは、オーケストラの奏でる背景音楽によって荒れ狂う風と雨の状況が目に浮かぶほどである。これらの「革命」に観客は驚きつつも初演は大成功を収めた。

 

さて今回のこのROHのプロダクションは2001年のデイヴィッド・マクヴィカー演出によるもので8回目のリバイバルである。数人のトップレスの女性と全裸の男性が登場する第1幕のマントヴァ公爵邸での乱痴気騒ぎの行き過ぎた描写には辟易する感があるし、リゴレットの家やスパラフチーレの宿の、不気味なほど暗い照明のセットには気が滅入っていしまう。さりとてこの日の上演では歌手達の歌と演技に心を動かされた。アレクサンダー・ジョエルの溌剌とした指揮の下、ジルダ役のルーシー・クローウィーは彼女の唯一のアリア「Caro nome(慕わしき御名)」のコロラトゥーラを優美な歌いまわしで完璧に歌い上げた。第1幕における早乙女の恋する表情も絶妙だった。さらにマントヴァ公爵を演じたマイケル・ファビアーノとの2重唱、「È il sol dell'anima(それは心の太陽)」では2人の織り成す恋の歌の美しさに惚れ惚れした。またリゴレット役のディミトリ・プラタニアスの歌唱力及び演技は最終日のこの日は最高で、ルーシー・クローウィーとの相性の良さと相まって、リゴレットの愛娘ジルダに対する痛いほどの愛情とそれに応える父への愛を2重唱「Tutte le feste al tempio(祭りの日にはいつも)」や、「V'hoingannato(お父さん、私が騙したの)から肌で感じる事ができた。スパラフチーレ役を演じたイタリア人のアンドレア・マストローニも、殺し屋の残酷さと計算高さを首尾よく演じ彼の力強く響く低音は印象的だった。なによりも第3幕でスパラフチーレの宿の中で戯れあうマントヴァ公爵とマッダレーナ、またそれを盗み見して傷つき苦悩するリゴレットとジルダの4人がそれぞれの気持ちを歌う有名な4重唱「Bella figlia dell'amore(美しい愛らしい娘よ)」のバランスの取れた麗しいパフォーマンスには瞬きも忘れ、聞き惚れてしまった。こうしてヴェルディの珠玉の音楽に当代一流の歌手達を揃えた公演は、幕後も感動に浸らせてくれたのである。

 

  マントヴァ公爵役のマイケル・ファビアーノ©︎ROH.PHOTO by Mark Douet

 

 

 スパラフチーレ役のアンドレア・マストローニとリゴレット役のディミトリ・プラタニアス©︎ROH.PHOTO by Mark Douet

 

 

 リゴレット役ディミトリ・プラタニアス©︎ROH.PHOTO by Mark Douet

 

 

 リゴレットの家のセット©︎ROH.PHOTO by Mark Douet

 

 

 ジルダが死ぬシーン©︎ROH.PHOTO by Mark Douet

 

 

 

Miho Uchida/内田美穂

聖心女子大学卒業後外資系銀行勤務を経て渡英、二男一女を育てる傍らオペラ学を専攻、マンチェスター大学で学士号取得。その後UCLにてオペラにおけるオリエンタリズムを研究し修士号取得。ロンドン外国記者協会会員(London Foreign Press Association)。ロンドン在住。ACT4をはじめ、日本の雑誌にて執筆中。

 

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