舞台美術家 堀尾幸男氏 ~日本が誇る、世界で活躍する舞台美術家 インタビュー~1

03.06.2018

 

日本が誇る、世界で活躍する舞台美術家 堀尾幸男氏 インタビュー 1

 

 堀尾 幸男 / YUKIO HORIO  舞台美術家(セノグラファー) (c) J News UK, Photo: Chikako Osawa-Horowitz

 

1946年生まれ 広島県出身 武蔵野美術大学卒。

‘69年、Hochschule Für Bildende Künste Berlinに留学し、Prof.Willi Schmidtに師事。’83年オペラ「Lucia」「Maria Stuarda」の美術を担当。以来、様々な舞台美術に携わる。

「THE BEE」「エッグ」「フィガロの結婚」 (演出:野田秀樹)、ミュージカル「エリザベート」「モーツァルト!」(演出:小池修一郎)、新国立劇場オペラ「Madame Butterfly」「Macbeth」「Der Fliegende Holländer」「Der Freischütz」、「エドワード2世」(演出:森新太郎)など。

近作として「ハムレット」(演出:ジョン・ケアード)、八月納涼歌舞伎「野田版 桜の森の満開の下」「表に出ろいっ! One Green Botle」(演出:野田秀樹)、スーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」(演出:市川猿之助)、「TERROR」(演出:森新太郎)、「リトル・ナイト・ミュージック」(演出:マリア・フリードマン)、「レインマン」(演出:松井周)がある。

2017年 第24回読売演劇大賞グランプリを受賞。

 

 

 

 

先月、世界で活躍する野田秀樹氏の演出/出演した「One Green Bottle ~表に出ろいっ!(邦題)~が舞台が上演された。(レビューを読む)その舞台美術を手掛けたのが、日本が誇る舞台美術家(セノグラファー)、堀尾幸男氏である。長年、野田氏を始め、三谷幸喜氏など第一線で活躍する演出家を影で支える舞台のプロである。今回、堀尾氏にインタビューすることができた。予定よりも長くなったインタビューにも嫌な顔一つせず、終始笑顔で話をされ、噂どおりの素敵な人柄に触れることができた。舞台制作をよく知らない人にでも分かるように丁寧に説明をしてくれているのも嬉しい。舞台美術家を目指す若者へのメッセージはただ単に舞台関係者、または若者だけでなく、異なった職業、年齢層にも共通するものではないかと思う。あらためて堀尾氏の生き方も素晴らしいと思う次第である。

 

 

*省略記号

J:J News UK 

堀:堀尾氏

フ:劇場関係者

 

J:今回の舞台のアイディアはどこから来ていますか?

 

堀:日本の伝統的能役者の家であり、伝統芸能のような家に住んでいるという設定になっていて、舞台(家)が能舞台、それをくっつけたんです。イギリスで公演されるのを最初から意識し、そこに西洋を取り入れようと思いました。能舞台は西洋でもよく使われますが、蜷川幸雄氏のリア王もそうです。(堀尾氏が舞台美術を担当)

でも今回は能舞台に住んでいるという状態を作り、その上に西洋のテーストをどう入れるかで、今日午前中、あなたのためにビクトリア アンド アルバート (V&A以下省略) 博物館へ行っていました。

 

J:えっ?!あ、ありがとうございます!

 

堀:もちろん舞台は完成していますが、プランを作る時の僕のイメージでして。。それをどういう風にしたかを説明しようと思いまして。ヨーロッパの伝統工芸品をV&Aで見つけたんです。例えばこれです。(写真参照)

これはエンボスきいてますよね?本来は壁紙です。壁紙だったものを明治終わり頃、日本人が壁紙だけではなく、ほんの表紙になっているものを見つけました。当時は豚の皮が入っていて、掘ったものにエンボスと言うのですが、一緒にプレスすることによってデコボコになります。当時豚の皮はなかなか手に入りませんから和紙で試みた人がいました。長い壁紙も和紙も合わせてプレスします。本の表紙も同じように作るようになりました。それを金唐革*と言います。

 

 堀尾氏がサンプルのために、インタビュー当日、見せてくれたデコボコのデザインをあしらったグリーティング カード

(c) J News UK

 

*金唐革紙:もしくわ金唐紙、日本の伝統工芸品であり、和紙に金箔、銀箔、錫(すず)箔等をはり、版本に当てデコボコ文様を打ち出し、色彩をほどこし、全て手作りで制作する高紙壁紙

 

それでなんとか、これを舞台に取り入れられたいと思ったんです。金唐革自体は既に廃れてしまって、三井財閥の岩崎家、東京の博物館にはその壁紙の一部がまだ残っていてそれを見ながらどうにか舞台に使えないかと考えたんですね。素材を豪華な金唐革をテーマに。しかし舞台はこれをそのまま使えません。デザインが小さすぎたりましてや和紙で全て作るのは構想的にもあり得ず、時間的にも無理です。

 

J:それでは実際に舞台で使用している素材はなんですか?

 

堀:ビニールとウレタン、5mmまたは10mmのスポンジです。

 

J:そのスポンジがデコボコの浮き出ている所に使用されているんですか?

 

堀:いいえ、違います(笑)つまり、これ(金唐革)に近いイメージで作っているので。スポンジを使用するのは舞台美術の基本があるのですが、台本には役者がのたうち回ったり、結構転ぶんです。且つ、日本の伝統には歌舞伎でもありますが、階段から落ちるというのがあり、階段からどんどん落ちて行くんです、お尻をついて。チャンバラをして切られた役者が階段を落ちたり、迫力のためなんですが、お尻が当たるともちろん痛いです。日本の役者はいわゆる大部屋という人たちは宙返りなどいろいろな訓練を受けているのであたかも階段から落ちたように見せかけるんです。しかしロンドン公演の役者さんたちは新劇人ですからどんどんとしたらお尻がいたいです(笑)

 

J:今回の舞台でも落ちる場面があるのですか?

 

堀:あります。落ちる場面もあり、床に転んだり、ひっくり返ったりするというので、階段を全てウレタンを使用しています。それでウレタンに金唐革をくっつけます。その金唐革の作り方は紐でも何でもその上に置いていき、その上から銀色のステンレスに見えて伸び縮みする布、メッキされていて金属に見えるものをスプレー糊で貼り、そうすると人が乗っても柔らかく、しかも潰れません。本物の金唐革はただデコボコの形になっているだけなので、押さえると潰れます。

 

舞台床の金唐革の写真(c) J News UK, PHoto: Chikako Osawa-Horowitz

 

 

怪我を防ぐためにウレタンを使い、尚且つ金唐革を使う事で、伝統的な能役者の家を表現、しかも金唐革は元々西洋の文化から来たものなので、和と洋の伝統を上手く両方取り入れられ出来た舞台なんです。

 

J:とても奥が深く興味深いコンセプトになっているんですね(感動)デザインだけでなく、役者の安全面など多方面からいろいろ考えて作られているとは想像もしていませんでした。

 

堀:まぁ、常識的な事でいいのではないでしょうか?必ずしも舞台美術家が安全面を考えるかというとそうでもないですよ(笑)

やはり(舞台美術家)はわがままですから(笑)後輩の舞台を見たんですが、階段の手すりがなく、空中に浮いたようにかっこいいデザインでした。だけど役者が落ちる可能性もあるから手すりをつけてかっこ悪くしろっと思ったんです。でもかっこいいほうが先になってしまうです。美術ですから。それは困ったなと思いました。

 

J:その場合、ビジュアル的なデザインを優先するか、役者の安全面を取り、自分の理想のデザインを妥協するか悩みますね。

堀:でもいいデザインは両方上手くできてます。安全を考えていくといい形になりましたっとなるんです。デザインを考えた、しかも安全になっていましたっというのが一番いいです。

 

J:なるほど、そういう事を意図も簡単にできてしまう堀尾先生はだから日本一なんですね。

 

フ:いいえ、世界一です(キッパリ)

 

三人:大笑

 

堀:イヤイヤ、こんな面倒くさい事を考える人は世界一にはなれないです。もっとわがままじゃないと。

 

J:デザインをするときには既に海外公演を英語でされるとご存知だったという事ですが、去年11月日本公演も英語で外国人の役者さんを起用しましたが、このストーリー自体が日本であり、伝統や風習、習慣のバックグラウンドが西洋の心情や表現とは違う気がするのですが、そこはどうなのでしょう?

 

フ:台本の翻訳はウィルさんという英国人と日本人のハーフの方でイギリスにも日本にも分かる内容になっていると思います。

 

堀:僕はどちらかっていうとイギリス寄りになっていると思います。我々にはよく分からなんところもありますよ(笑)(題名が)「ワン・グリーン・ボトル」とか意味が分からないです。(笑)

 

J:確か日本語の題名は「表へ出ろいぃ!」でしたね。

 

堀:本の中身も(日本語と英語では)かなり違うからですよ。

 

フ:やはり日本とイギリスの文化の違いを意識しているところはあったと思います。

 

J:それでも能役者の家族がメインというのは面白いですね。

 

堀:そうですね、そこは変わらなかったです。

 

J:なかなか、お互いの文化の違いを意識しながらそれぞれの国の人たちを理解させるという舞台を作ると言うことは。

 

堀:野田さんは難しい方に方にと行きます。危ない。日本じが分からないものでも西洋の面白さを取り入れたりするわけですから。僕も気をつけないと。面白いよっと言ったらそっちの方へ行きますから。

 

J:野田さんは西洋寄りなんですね?

 

堀:イギリスでも勉強してますから。1人でやってるんです。すごいですよ!約20年前に1人でイギリスに来て、1人で脚本を書いて、1人で役者を集めて、1人で稽古場も見つけながら…、全部1人でです!すごいエネルギーでしょ?彼はそういう西洋の人と対等に、いやそれ以上にやりたいという人なんです。だから別に日本人の考えが欲しいわけでもないんです。

 

J:なるほど。それでもやはり野田さん自身は日本で生まれ育った日本人であり、日本の文化や習慣などが身に染み付いていて、日本人としての表現の仕方や感性あるということは抜けないと思うのですが。

 

堀:抜けないです。その抜けない面白さがまたあるのでしょう。

 

J:野田さんと一緒に舞台を作りたいと思う理由はなんですか?一緒にやる楽しさなど。

 

堀:ありますよ(笑)

 

フ:ギャラがいいんです

 

三人:(笑)

 

 堀尾氏が手がけた今回の舞台美術 (c)J News UK, Photo: Chikako Osawa-Horowitz

 

 

堀:ギャラは最悪だよね(笑)

野田さんのメタルフォーゼ。この言葉ご存知ですか?ドイツ語なんですが。返信するという意味で、物が何でも返信するというのが彼の演劇の基本になっている。そこに物凄く魅力を感じる。

例えばここに何でもない紙の袋がある。クッキーが入っていた紙ですね。(紙袋をくしゃくしゃして)彼はこうして音を出して『これ、何に聞こえる?』『波の音?』『心臓の音にも聞こえるかなぁ』とかメタモルフォーゼで紙は紙ですね、現実には。でもそういうイメージで演劇を作らせて、観客に想像させるのが演劇というものだと、僕に教えてくれました(笑)

 

J:舞台美術家は演出家のアイディアを3次元に表現する役割ですが、野田さんのように既に自分の世界やアイディアを持っている方の場合、美術家としてはかなりハードルが高いと思いますが、苦悩とかはあるのですか?

 

堀:ま、(お互いのアイディアが)合わないときにね。まるで僕の方が全然ダメなように言われるよね。

だけど、それは否定されて、別に舞台美術家が悪いわけではなく、自分のイメージがこうだっとでも演出家のイメージはこうだと言われた時は自分の意見を引っ込めなくてはいけない立場ですよね。悔しいけど。でも演出家も我々に向かってダメと言う勇気も必要だし、ひょっとしたら僕の方がいいかもしれないですよね、悔しいからダメだって言う演出家もいますよね、まー何でもかんでも演出家が中心です。悔しいけど(笑)でも決してお互いが間違っているわけでもない、演出家が思うのも我々が思うのも間違いではない、出し合うアイディアは対等ですよね。それをどう育てるか、そのアイディアが伸びそうかとか、目的はメタフォルフォーゼし易いかという事です。観客をどう想像させてどう演劇を運べるかっという事。そのための方法論がどっちが良いかということが基本かなと思います。

 

J:まずアイディアを出し合い切磋琢磨していく感じですね

 

堀:そう、アイディアも理屈をつけて、例えば「じゃー能舞台にしよう」とか屁理屈をつけて、だってあなたの台本にそう書いてあるんだからとか。(演出家が)逃げられないところから押してきますよね。本当は能舞台じゃなくてもいいんですよ、家でいいんですよ、家の中に能役者が住んでいるわけで、実際には能舞台に住んでいるわけではないんですから。でもイマジネーションとしては出易いですよね。

 

J:先ほど舞台美術を拝見させて頂いて、壁だけではなく、同じ素材を床にも敷き詰めているというのはどういうコンセプトですか?壁は壁、床は床として別々でもいい感じはないですか?

 

堀:それは僕の癖かもしれないです(笑)スタイル。僕がそこを固執してしまっているのは床と壁をつけることで広く見えるんです。小劇場でやっても広さが欲しいので。今回も広く見えるかなっと思って。もし壁の方に歩いて行ってもおかしくないかなって。ちょっとしたイリュージョン(笑)でも必ずしも広いのが良いというわけではないです、でも実際には狭いので照明を絞ればかなり集中力が出るわけです。


 

インタビュー 2へ続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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