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若手舞台美術家、池宮城直美 〜プロへの道〜 (後編)

池宮城直美 舞台美術家 https://naomi-ikemiyagi.wixsite.com/stage-design

1984年栃木県生まれ。 武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科卒業後、演出部を経て2009年より舞台美術家 二村周作に師事。2013年独立、幅広いパフォーマンスに舞台美術家として参加。文化庁 平成28年度新進芸術家海外研修制度にてイギリス、ロンドン芸術大学セントラル セント マー チンズ校、他で1年間研修を行う。 最近は「GANTZ:L」演出: 鈴木勝秀 銀河劇場「Were born」演出: 伊藤靖朗 Nora Hair Salon 等に舞台美術家として、オペラ「ワルキューレ」「魔笛」に舞台美術助手として参加。

J: 30歳を過ぎて、ロンドンに留学しましたよね? それはどういう理由で?

池: デザインをやって行く中で自分のやり方に行き詰まりを感じてしまったということが一点。日本の「決めた目標/ゴールに対して、ブラッシュアップして行くやり方」にちょっと苦しくなってしまって。二点目に、文化庁の海外研修制度でロンドンに行くのがずっと夢だったんです、これは18歳の時に立てた目標で、世田谷パブリックシアターの講習会で知った時にやろうと決めたんです。海外で勉強するなら文化庁の助成金で行こうと。実際に一線にいる美術家って殆どその道を通ってるんですよ。私の師匠も文化庁でロンドン、スイスでしたし。

J: それはとどうやって選ばれるんですか?

池: 自分で応募します。こういう内容の研修がしたいので助成して下さいって書類を提出して一次書類審査、 二次面接審査があって、あなたの研修目的が今後の業界を振興するために有益そうなので勉強に行ってください、合格ですっていう感じです。

J: それは一年ですか?

池: はい、350日満期いっぱい行きました。その理由も満期行くって18歳の時に決めたからですけど。期間は200日~350日で、自分で選択できるのですが、行くんだったら満期でしょと。

J: イギリスの研修に行ったことで何か新しい発見などありましたか?

池: ありましたね!!渡英前に予定していた研修内容よりも、渡英してから新しく出てきた課題の方が大きな収穫になりました。渡英前に私が考えていたプログラムは言葉悪いですけど誰でも思いつきそうな事。教育であったり、自分の技術の向上であったり、文化交流だとか、結構一般的な事でした、それらを全てやってみて、そこからのフィードバックや繋がりが次のキーワードをもたらしてくれて、それを掘り下げる事で体験したことが最終的には最大の収穫になったと思います。

J: それは今の仕事にもかなり結びついているという事ですか?

池: はい、直結しています。渡英前と後では感じ方そのものが変わっちゃって、やりたいなと思うパフォーマンスの種類も変わってきましたね。それは(現地の)大学で勉強した事と、ロンドンでいろんなアート、パ フォーマンスに触れたこと、本場の演劇とかをいろいろ観て肌で感じたことがもたらしました。私が渡英していた2017年はいろんな国際情勢の変化があって、EU離脱が決まり、アメリカもフランスも大統領も変わって、何度もテロもあった…社会の変わり目を肌で感じた事が時代と演劇というもののあり方について考えなきゃいけないなっていう機転になりました。時代と演劇っていうものは避けては通れないリンクしている課題だし。演劇の存在価値とか、アートの存在理由は時代と社会とリンクしているから。あまり日本ではそういう考えはなかったんですけど、ロンドンに行ったらそれを直接感じるわけです、同僚との会話からだったり、本当に生活の端々から。そういう毎日のお陰で自分が今まで悩んできた日本のやり方にちょっと距離を置けるようになって、もっと客観視できるようになった気がしますね。恐らく、帰ってきて半年なのでそこまで客観視できてる実感はないんですけで、でも確実に前とは違う視点を持っている気がします。

舞台美術家、池宮城直美氏

舞台芸術集団 地下空港 詩的・移動参加型演劇『Were Born / ワー・ボーン』

(C) J News UK, Photo: Chikako Osawa-Horowitz

J: 今、新しい舞台美術を担当されていますが、どんな舞台ですか?

池: 今、今週末にやる舞台は…普通の演劇だと、演者がいて、お客さんがいる(向かい合う手で)→←矢印の方向がこういう方向なんです。これはブラックボックスであろうと、プロセミアム型のお芝居であろうと、「演じる人」と「観る人」という、矢印の方向っていうのは大きく変わらないんですね。 物語があって→←お客さんが観るっていうスタイルがほとんどだと思うんですけど、今回の公演っていうのは、ここの物語とお客さんっていう、矢印がいろんな方向に交錯する構成になっています。それと一つの決まったストーリーを全員が観るのではなく、偶発的に起こるものを投げて、お客自らストーリーを作るというような構成の舞台になっています。

J: いわゆる参加型?

池: 参加型。で、どう感じるのか。一方的に発信された物語というものをお客さんが受け取るだけでなくて、自分はどう考えるのか、どう受け止めるかっていうのが物語に関わってくる、参加型ですね、まさに。

J: それは面白いコンセプトですね。場所も普通の場所じゃないですよね

池: そうなんです。演出の伊藤さんもイギリスで勉強された方で、サイトスペシフィック演劇っていうものに理解があって、私も丁度そういうものをやりたいなって思ってたんです。劇場を出ても私たちには物語っていう武器があるから、物語と物語る人がいれば、それだけで十分なんじゃないかっていう確信があって、劇場のように恵まれた環境てでなくても、我々は力を持つ事かできるということを示したいよねっていうこともあって、丁度、 それをお互い、二人で企画したのではないんですけど、丁度タイミングが合って、お互いやってる事を知っていたので、ちょっとやってみようかって。その私の背景と伊藤さんの背景が一致したので、お互いやりたいことやってみる?っていうのが今回です。

J: それで一つのストーリーではなく、いろいろなところで違う物語が展開して行くんですが、一つメインというか、コアになるストーリーはあるんですか?

池: ストーリーは役者の内側になります。

J: どういう意味ですか?

池: 今回は、全部は説明しない物語、そして最後、全部辻褄が合う訳でもない。どんどん謎が解き明かされてくようなストーリーではなくて、いろんなところから見て行って、全体的な形を見るストーリー。

J: 難しいですね

池: はい。難しいと思います。た、その中に美術家なり、演出家なり、役者に、その自分で何を伝えようと思っているかっていうのがないとやはりブレるから。それは各自が持っていて、でも実はすり合わせをわざとしてない。それは誤読っていうか…Aというストーリーを伝えてお客さんにAが伝わるよりも、私たちはAを伝えたけど、お客さんはB と思った、今回はそれがいいんです(笑)。Aを伝えてAを受け取るっていう演劇って、どこでもあって、それはすごくスタンダードだし面白い、親切だしお金を払うんだったらそうあって欲しい、正しく演出意図を全てのお客さんに伝えるっていうのが、演劇の眼目じゃないですか、でもそういう演劇らしい演劇っていうところから今徐々に離れつつあるっていう流れを感じていて。

J: それは世界的ですか?

池: 世界的にだと思います。私は日本とロンドンの一部しか知りませんけど。日本でも少しずつそういう動きが出ている、それはまだマイナーですが。全て社会性と切り離された物語っていうのを続けるのか?額縁で切り取られた物語とお客さんっていう、そこにコミュニケーションはない訳ですよね。もっとお客さんと物語の間にいろいろな関わり方があってもいいんじゃないかっていう動きをロンドンで私は感じたんです、すごく。

J: お客との関わり方が大事なんですが、伝えたい事がAなのに、お客さんがBを受け取ったら誤読にならないんですか?

池: なります。

J: それでオーケーなんですか?

池: 今回はオーケーです。例えば、宮沢賢治の本を読んで、AさんとBさんで受け取り方が全く違うじゃないですか、多様性が芸術だと思うんです。

J: ということは、みんながBではなく、CとかDでもいい訳ですね?

池: ありえますね。なぜなら、今回は偶発的に物語が起こるので全員が同じストーリーを目撃してないんですね。その時点で個体差がある。ただ全体の領域としてはAを伝えなけれはばいけない。けれど小さい物語としてはBであって、Cであって、さらにお客さんのアイディアをプラスしたものでもいいと。いろいろなその形ができるものでないと面白くない。そして将来性がない。演出演劇ではないけど、どういう風に読み変えていくかを、その時々の時代に合わせてどういう風に時代にフィットするかを探せる物語とか、そうゆうのを語ってないと面白みがないと。それが、芸術とか、演劇とかが存在する意義だと思うし、我々の活動っていうのは、これだけでお腹いっぱいにならない、じゃあ、何故存在するのかっていうのを考えると、3大欲求は満たせないけど、我々がいる意義として、観客がそれを必要としている理由みたいなものがそこから見つかってくるんじゃないかと。

演出家の伊藤氏と俳優陣による最終打ち合わせ

舞台芸術集団 地下空港 詩的・移動参加型演劇『Were Born / ワー・ボーン』

(C) J News UK, Photo: Chikako Osawa-Horowitz

J: では最後にこの仕事をやりたいと思っている若い人たちへのアドバイス、メッセージをお願い します。

池: たまに言うのは、「心配しなくていい」 と。だって「舞台美術家にはなれないから!」、何も心配すなくていい、何も怖くない。なれないんだよって言われて、そんなことない、私の力を見てみろ!!っていうんだったら、初めてそこからの一歩だと思います。私もまだまだ美術家とはいいきれない立場ですし。私は日本舞台美術家協会に所属していますが、会員は200人います。実際に稼働している人数で言えば100人に満たない、もっと言えば、日本に50人いれば足ります。20、30代でも70代の老舗美術家や海外のデザイナ−とも戦わないといけない。30代は新人だし40代まで生き残るのが難しい業界。非常に狭き門です。もちろん私も若い子を殺しにいきますから、覚悟決めて体力と知性と根性、集中力をつけてこい!!ってことです!

J: もし、イギリスなり、アメリカなり、他の国に留学して、他の人で国内で勉強している人と か、師匠を見つけてアシスタントして経験する人に差をつけられますか?

池: ん~、難しい質問ですね。いろんなことを海外生活学べるし、違う目線を獲得できるかもしれない、刺激も多い。人生のどの時期にどこで何をするかのタイミングは各人それぞれだと思いますが、大学卒業して外国に行って舞台美術を学んできても、日本で舞台美術デザイナーになるには遠回りになるかもしれません。なぜなら、20代前半の一番いい時期はコネクションとか繋がりとか信頼とか、業界のテンポ、作法を体に叩き込む時期であり、日本での仕事の仕方を学ぶ時期だと思うんです。その時期に海外にいる危険性っていうのはありますよね。一度技術や知識を習得し確実に地盤を固めた上でキャリアアップとして海外に行くという選択肢の方が将来性があると思う。舞台か?海外か?はっきりと人生設計をする必要があります。人生の限られたある期間に多くのことを一度にはできません、まさに二兎追う物は一兎得ずです。本気の人間同士が凌ぎを削る世界ですから狭くより深く専門的に、完全自己責任で人生かけて挑んでもらうしかないですね!

J: 頑張ってください!

池: はい!

動画はこちら↓

池宮城氏がインタビュー時に担当していた舞台:

舞台芸術集団 地下空港 詩的・移動参加型演劇 『Were Born / ワー・ボーン』

2018年4月14日(土)15日(日)

作・演出 伊藤靖朗 音楽   表現(hyogen) 美術   池宮城直美 出演   野田孝之輔 鎹さやか 佐々木恭祐(剣舞プロジェクト) 奥田努(Studio Life)      山内貴人 宮島はるか 古澤美樹 森耕作 制作補佐 高橋恵梨子 神山友紀 協力   MMJ BLUE LABEL 剣舞プロジェクト Studio Life OkiaProduct

会場   NORA HAIR SALON

この劇団の主宰であり、脚本家・演出家の伊藤靖朗氏:

幼少より母から劇を通した教育を受け「チャップリンの独裁者」を物心つく前から鑑賞し、大笑いして育つ。幼稚園入園式にて記念写真の演出を初めて行って以来、演出家としての人生を歩み出す。世界11カ国を旅し、磨いた独自の感性と表現力で、社会と関係を考える表現者である。 2014年文化庁新進芸術家育成プロジェクト『TOP』に演出家として合格。九州にて自作『増殖島のスキャンダル』を上演。 またイギリスのナショナル・シアター・ウェールズ(ウェールズ国立劇場)の日本人招聘プログラムWALESLABに選抜され渡英。『赤い竜と土の旅人』の創作のための現地調査と発表を行う。2016年3月に音楽劇として上演し、CoRich舞台芸術まつり2016春にて準グランプリ&制作賞をW受賞。 静岡県静岡市葵区出身 日本演出者協会会員 日本劇作家協会会員 2001年国際基督教大学同窓会奨励賞受賞 2016年CoRich舞台芸術まつり2016春『赤い竜と土の旅人』準グランプリ&制作賞受賞

舞台芸術集団

http://www.uga-web.com/sb/ 演出・脚本・執筆・出演・作詞・作曲・ワークショップなどお仕事のご依頼は、

地下空港管制塔メールアドレス: kanseito@uga-web.com

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