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連載小説:Every Story is a Love Story 第13話 (Only Japanese)

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リカの場合 後編

次の週から学校ではティアゴと隣同士に座るようになった。なんとなく周りも気がついているけどほっといてくれて、その感じも心地よい。勉強自体もどんどんハードになっていくが、ティアゴ以外にも友達ができ、みんなで協力して課題をクリアして、を繰り返すうちにあっという間に前半が終了した。後半は各自自分の専門の学校に移るのから解散である。同じクラスから私と同じコースに行く人はいなくて寂しいのだけれど、ティアゴとは学校が近いことが分かって心が落ち着いた。

前半の期間、毎日ティアゴと出かけたりディナーを食べたり、週末は彼のフラットに泊まって過ごしていた。来週から学校が変わる、というタイミングでティアゴは思いがけないことを提案してきた。 「残り1ヶ月、俺のフラットに来ない?1ヵ月後には離れてしまうならもっと一緒にリカと過ごしたいなって思ってたんだ。」 「でも、1ヵ月後に離れるのにって思うと少し怖いかも。」 「もちろんすぐには答え出さなくていいよ。でも今だって半分一緒に暮らしているようなもんだと思って。」 彼のその言葉には妙に説得力があって、だから結局次の日に移ることを伝えた。でも迷いがないわけではない。今だって1ヶ月ちょっと先には離れることが分かって、その先続けるつもりはお互いないこと受け入れてる。そのことを頭で理解しても、自分の気持ちがついていけるか分からないのだ。それでも、私はティアゴと住むことを選んだ、シンプルに親には言えないなって思ったら、なぜだか気持ちが楽になった。

自分の場所を引き払って、彼のフラットに引っ越す。引っ越すといってもあんまり荷物もないからミニキャブを使ってあっさり二人で引越し作業は完了した。そのあと二人で近所のイタリアンでゆっくりディナーを食べて、たくさん話して一緒に眠る。なんだか本当にカップルみたいって変なことをしみじみ感じた。

いくら学校が近いとはいえ、お互い別の場所に通い始めると、確かに昼間一緒に過ごす時間が少なくなった。課題もそれぞれ大変で、家でもパソコン開いてカタカタやってる時間も長い。だからこそ、一緒にご飯を食べる時間がより濃密になり深くなっていく。お互いの一日の報告、専門分野について、たわいもない話、生活がかぶらない分、話は尽きなかった。

週末は二人でパブにいったり、マーケットで食材を買って二人で料理をして過ごす。最初の3週間、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

でも最後の1週間、やっぱり会話はどこか重くなっていく。これからどうする、って言葉は言えない。先がないと分かっても、本当に先がなくなってくると、どうしていいか分からなくなってしまう。彼に会うのがほんの少し怖くなって、カフェで課題をこなして帰るようになる。それでも帰る場所は彼のところしかない。そんな様子をみて、ティアゴはディナーを作って待っててくれた。

「今日はなに作ってくれたの?」 「リカが好きなチキンをオーブンで焼いたやつだよ。どうした、泣かないの。」 そう気づいたらわたしは泣いていて、彼は抱きしめてくれていた。 「...ガーリック臭いよティアゴ。」 ふたりしてそこで笑いあう。 「もう、リカらしい発言だね、はやく着替えてきて食べよう。」 テーブルにはおいしそうな料理とワインがセッティングされていた。なんか慣れてるなって思ったけど、それ以上に彼の優しさが心にしみてくる。 「さぁ食べよう、冷めちゃうよ」 その一言から食事は始まった。

それでも最初、なにも話せずチキンを俯きながらつつく。ティアゴは今日の授業はこういう内容だったとか、普段と変わらないことを明るく話しつづけていた。 「なんか寂しいね、リカ。やっぱり」 その一言で、自分がティアゴに対して感じていた怖さが分かった気がした。彼にとって私との別れは平気なんじゃないかな、という思い込み。 「本当に寂しく辛くて、でもそれを言葉にすることも怖かった。」 そこから二人、自分の感じていることをそれぞれたくさん話した。頭では理解していること、でも心では違うことを感じていること、その間で行ったり来たりしているのは、自分だけではないと知れて気持ちがゆっくり落ち着いてくる。 「分かっていてもやっぱり別れが来るのが分かってるってキツイことだった。でも俺は後悔してないよ」 もう言葉にはできなくて必死でうなずいた。 「無理もしなくていいし、そのかわりたのしいときはたのしめばいいんだよきっと。」 この人を好きになってよかった。

次の日からまたいつも通りの生活をした。課題をこなし二人で料理して散歩したり遊びに行ったり。帰国の準備をしている時も、なぜか笑いながらできた。トランクが閉まらないよーとか、洋服買いすぎとか、そんなことを二人でキャキャしながら日々を過ごしていく。時に泣いてしまうことがあってもティアゴは受け止めてくれる。それだけでいいのだ。

最後の夜、二人で盛大に料理を作ってディナーを楽しむことにした。料理中は冗談を言い合い、テーブルにどんどん並べていく。食事の時も思ったより、ずっと自然に思い出を振り返り笑っていた。二人で過ごした日々の中で一番楽しい時間になった。

旅立ちの朝、当たり前のようにコーヒーを入れてくれた。空港が別だから、それぞれこのフラットの前で別れることになっている。その時まで、もう少し。お互いに黙ってそれぞれに窓の外をみている。ふと彼の方を見ると、彼も私を見ていた。涙が溢れてきて、でもそれはとても自然なことだったし、彼の代わりに泣いている気もしていた。私が落ち着いた時に彼は耳元で、同じ日に帰国でよかった、リカのこと置いていけないし、リカのいないロンドンにもいたくなかったから、とささやいた。私も同じだよ、と言わなくても伝わっているだろう。 その後、それぞれキャブが来た玄関の前でキスとハグをして別れた。縛らないけど、いつでも連絡はしていいんだと、ティアゴは私に何度言ってきた。それはきっと、半分は自分に言い聞かせているのだろう。

別れてからも飛行機に乗るまでテキストを送ったり搭乗ぎりぎりには電話で話もした。きっと当分はやり取りは続くだろう。でもいつかゆっくりと離れていく。仕方ないのだ。物理的な距離はどうしたって埋められない。でも、どんな日が来たとしても一緒に過ごした日々は変わらないし。いつかまた会える日が来た時、その時はきっとお互い笑顔で会えることは分かっているから、だからそれだけで十分なんだ。でもやっぱり辛い。両方の気持ちを抱えて日本に帰ろう、きっとそれでいいと思うから。こうして私は2単位とそれとは比べもにならない時間を手に入れてロンドンから離れた。

つづく

原田明奈

千葉県出身アラサー女子

今作が小説家デビュー、前職はお皿洗いからパラリーガルまで幅広い。いろんなことにとりあえず首を突っ込んでみるチャレンジャー。

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