連載小説:ちきゅう人一年生 - 1

 

 

 

 

 

1. 知る

 

ロンドン・ヒースロー空港に無事戻ってきた。耳に馴染みのある発音が聞こえ、どこに行けば何があるか分かるという環境に安心を感じずにいられない。日本のパスポートを保持しているものの、3秒で通れる自動パスポートコントロールに登録してあるため、毎度の入国はかなり楽になった。スーツケースも他の誰もを差し置いて、5分と待たず出てきた。まるで運命が今回の出張のストレスを穴埋めするかのように物事をスムーズに動かしてくれているようだ。

 

1週間のベラルーシ出張は困難を極めた。英語がほとんど通じない上、現地のお金に両替する場所さえなかった。幸いクレジットカードが使え、日本よりも現金社会ではないところは救われた。取材対象となる場所や人物も当日になるまで、何も分からなかった。わざわざロンドンから来ているのに取材できないとなるとかなり厳しい。そんな手探りな状況の中でも仕事はどうにかこなせた。訪れた2つの劇場は重厚で歴史を感じる作りになっていて、装飾の1つ1つが見事だった。今回はオペラではなくクラシックバレエ。ベラルーシの空港を出発する頃には、もうちょっとこの街にいたいと思うほど、充実した時間を過ごせた。

 

ヒースロー空港から急いで自宅に帰る気にもなれず、ローカルのバスに乗り、バスは1つ1つバス停に停車し、人を乗せたり降ろしたりしながらゆっくりと市内方面に走り抜けていく。夜のロンドン郊外を疲れたまなこでぼーっと眺めていると、大きく明るい月が窓から見えた。

「もうすぐ満月か。」一人、そう呟いていた。

田中正子。舞台写真家、及びジャーナリスト。小さい頃から自分の名前が嫌いだった。何とも平凡な昭和臭い名前だから。『正子』と書いて『しょうこ』と読む。私が舞台関連の取材を本格的に始めたのは3年前、それまでは舞台を専門に写真を撮っていた。小さい頃から写真家になるとは思ったこともなく、どちらかいうと、なりたかったのは画家だろうか。でもいつも好奇心旺盛で天文学や考古学、人類学などにも興味はあった。

 

満月と新月になると必ず連絡をくれる友人が何人かいる。本人たちは特にその日が満月だとか、新月だとか意識しているわけではないが、決まって何か胸騒ぎがしたり、嫌なことが起こったりするらしい。その一人である加瀬みゆきが、いつものようにメッセージを送ってきた。

「正子、今日は何だかすごく気分が悪い」

「あぁ、明日はまた満月だからかもね」

 

確かに古い言い伝えなどでは人間が狼に変身するとか、最近では何故か事故や事件が多いとか、電気機器が壊れやすいとか聞いたことはある。

 

以前は私自身も満月や新月の前後2日は心が落ちつかず、そわそわすることが常だった。ただここ最近はトレーニングのせいなのか、自分が本当は誰であるかが分かったからか、心に余裕を持って日々を過ごせるようになったのかもしれない。

 

本当の自分。

そんなことを考えている人間なんているのだろうか?少なくとも私は小さい頃から何となく、常に自分が他の人とは違うと感じていた。

 

そして本当の自分を知る事になったのは、些細な偶然だった。フローリストの友人である佐々木薫がある人を紹介してくれた。

 

その人は界宇美といい、もう20年以上ロンドンに住んでいる女性で、バリバリのキャリアーウーマンだった。実は彼女と正式に会う数ヶ月前に、あるイベントでたまたま居合わせ、その時はお互いに初対面であり、特に一切言葉も交わさず、ただちらっと見ただけだったが、どこか自分とに同じ同種、同じニオイみたいのを感じた。だから薫が突然3人で会うようセットアップしてくれた時は本当に驚いた。

 

それから3人で何度か食事をしながら、たわいもない会話をし、楽しい時間を過ごした。

 

数ヶ月後、彼女の仕事が認められ、その功績を称える祝賀パーティーが開かれる事になった。そこで何かピンと来て、彼女に即、インタビューを申し込んだ。私の専門は舞台であるから、本当はランダムに別業種を選ぶことは基本許されないのであるが。彼女も忙しい中、喜んでインタビューに応じてくれた。

 

インタビューの内容自体、普段の彼女の仕事ぶりからは想像できないような未知との遭遇的、様々な話が聞けて面白かった。

 

そして本当だったら1時間にも及ぶインタビュー後、さっさと帰宅し、原稿を上げるのだが、何となく彼女ともっと話がしたくて、最寄りの駅まで一緒に行き、駅についても話が終わらず、結局ずっと数時間話し込んでいた。

 

話がどういうわけか宇宙の話になった時、彼女がさらっと、

「だって、正子さんも他の星から来てるから。」と言った。

「え?!」自分の耳を疑う。

「正子さんも?!」「じゃぁ、宇美さんも?」

いろいろな思いや過去の事象が頭の中でぐるぐる回り、混乱したというより、

なんだか変に納得してしまった自分がいた。

「あぁ、なるほど。だから自分はこんなに他の人たちと同じことをやろうとしても、同じことをやってるつもりでも、全てがどこかトンチンカンだったわけか。」

「多分、そうじゃないかな。」

 

彼女の返答はとても冷静であり、何を今更驚いているのという感じであった。

宇美さんはシリウスからもう何千年も前に来て、地球で輪廻を何度か繰り返し、私はどうやら今回が初めての地球人として生まれ変わってきたらしく、いわゆる地球人一年生という事だ。

 

 

つづく

 

2.小学校 →

 

 

 

 

 

ひまわり仁咲(みさき)

東京生まれ、もの書き、画家、写真家。

中学生時代から詩を作り、油絵を描き始める。

https://ameblo.jp/himawarimisaki/

 

 

 

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