連載小説:ちきゅう人一年生 - 2

 

 

 

 

 

2. 小学校

 

ここ最近、毎日が目まぐるしく過ぎていく。同じ24時間のはずなのに、時間の流れは昔とでは違ってきている気がする。私が日本で学生をしていた頃は、1日が恐ろしいほど長く感じたから。時計の秒数を示す針の動きを先生の話も聞かないで、ずっと見ていた。

そして思うのは、

「1分が長い」ということ。

ゆっくりと同じ方向に安定した速度で回っている針をじーっと見続け、息をどれだけ止めてられるかとか、変顔をどれくらい続けられるかとか、授業中でのそれなりの自分の楽しみを見つけていた。

 

小学校1年の時から学校が楽しいと思ったことは一度もなく、『毎日朝起きて同じ場所に通う』ということが苦痛の何ものでもなかった。

 

ある日、テレビから南の島のハメハメハ大王の陽気な曲が流れてきて、思わず賛同してしまった。

『南の島の大王は子供の名前もハメハメハ。学校ぎらいな子供らで、風が吹いたら遅刻して、雨が降ったらお休みで』

 

学校に毎日通うことに違和感と疑問しかなかった。

地球の言語を元々理解することができなかったのか、『先生』という人間の指示に『学校』では従わなくてはいけないという根本的なコンセプトが全くなかったのかもしれない。

 

小学校の1年生で今でも覚えていることは、クラス全員が全く同じ道具箱と呼ばれる箱と、カラフルなおはじきなどが入った算数セットを持たされ、それがあまりにも新鮮で嬉しかったことくらいであろうか。それと、一体なんの授業だったかは忘れたが、担任の先生がある日突然「どんなタイプの爪切りを家で使っているか』と生徒に尋ねた。それがどのような意味があるのか、今でもよく分からないのだが、算数とか国語とか全く授業を聞いてない割に、そんな事だけは耳に入った。

 

爪切りには2つのタイプがあって、1つはパチパチ爪を切ると普通に切った爪が周りに飛び散ったり、床に落ちたりするタイプ。もう1つは爪切りの両サイドにストッパーのようなものがついていて、爪が飛び散ることもなく、切り終わってからまとめて切った爪を捨てられるタイプ。

「切った爪が飛び散るものを持っている人、手をあげて」クラスの半分以上が手を挙げ、私も手を挙げた。

「では、切った爪が飛び散らないものを持っている人、手を挙げて」数人の生徒が手を挙げて、私もまた手を挙げた。

 

先生は私が2度手を挙げたのに気づき、

「田中、なんで君は2度も手を挙げたのかい?」と不機嫌そうに尋ねた。

「え?!うちには両方の種類の爪切りがあるので。。。」と答えると、クラスメイトがクスクス笑い出し、先生までも「そんなのは、どちらか片方に手を挙げればいいのだよ」と言われ、ますます混乱した。

 

(だって先生がそれらの爪切りを持っている人、手を挙げて、と言ったから手を挙げただけなのに、どちらか片方だけあげればいいって、じゃぁ、どっちに私が手をあげるべきだったのか?)とその日から私の過酷な日本での12年間教育が始まった。

 

それからずっと先生が質問していることを素直に答えるとほぼ毎回私の答えは間違っていた。私の答えが本当は正しいとかに関係なく、先生が求めている回答ではなかったらしい。もちろん算数のように1+1=2と明確な答えが出るものは別として。

 

先生に違和感を感じる中、クラスメイトも私がどこか『他とは違う』というのを感じ取ったか、小学校入学後、殆ど直ぐにいわゆるイジメが始まった。朝行くと下駄箱の上履きが左右逆になっていたり、他の人の下駄箱に入っていたり、休み時間に消しゴムや鉛筆が筆箱から抜き取られていたり。

 

元々敏感な方ではないから、それがイジメだと最初は気がつかなかった。自分で上履きを置き間違えたのかな?とか、消しゴムを学校に持ってくるのを忘れたかな?とか。しかし、それが頻繁になっていくと流石に学校に行くのも嫌になった。先生はトンチンカンな回答をする私を他の生徒と一緒に失笑し、事態が改善することはなかった。

 

我が家は一般的なサラリーマン家庭ではなかった。だからといって自営業で店をやっているわけでもなく、かなり大きくなるまで父親がどんな職業なのかも知らなかったし、知ろうとさえ思わなかった。小学生になって初めてクラスメイトやその親から「田中さんちのお父さんは何をやっているの?」と聞かれ、初めて父親の職業を私は知っておくべきなのかと気がついた。父はほぼ毎日家にいて、それが普通だったから他の子の父親もそうだと思った。

 

ハメハメハ大王の子供のように雨が降ったら学校を休んだり、しょっちゅう朝、お腹が痛くて、遅刻して学校へ行っていたが、両親は特に怒ることもなく、今思えばかなり寛容だった。

 

つづく

 

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ひまわり仁咲(みさき)

東京生まれ、もの書き、画家、写真家。

中学生時代から詩を作り、油絵を描き始める。

https://ameblo.jp/himawarimisaki/

 

 

 

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