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ロイヤル・バレエ団「トリプル・ビル」公演&ライブシネマ - 2019年5月16日


Natalia Osipova as Medusa and Matthew Ball as Perseus in Sidi Larbi Cherkaoui's Medusa

(c)2019 ROH.Photo by Tristram Kenton.

The Royal Ballet ‘Triple Bill’ at the Royal Opera House & Live Cinema on 16 May 2019 ‘Within The Golden Hour’ Choreography by Christopher Wheeldon ‘Medusa’ Choreography by Sidi Larbi Cherkaoui ‘Flight Pattern’ Choreography by Crystal Pite

2019年5月16日 ロイヤル・バレエ団「トリプル・ビル」公演 ライブシネマ 「ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー」振付け:クリストファー・ウィルデン 「メドゥーサ」振付け:シディ・ラビ・シャルカウイ 「フライト・パターン」振付け:クリスタル・ピテ

「ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー」振付け:クリストファー・ウィルデン

Christopher Wheeldon's Within the Golden Hour (c)ROH.Photo by Tristram Kenton.

Sarah Lamb and Alexander Campbell in Christopher Wheeldon's Within the Golden Hour

(c)ROH.Photo by Tristram Kenton.

Ryoichi Hirano and Lauren Cuthbertson in Christopher Wheeldon's Within the Golden Hour

(c)ROH.Photo by Tristram Kenton.

Ryoichi Hirano/ Lauren Cuthbertson and Sarah Lamb/ Alexander Campbell

in Christopher Wheeldon's Within the Golden Hour (c)2019 ROH.Photo by Tristram Kenton.

現在世界をリードする3人の振付師よる新しい舞台が公開された。

1つ目はロイヤル・バレエではお馴染みのクリストファー・ウィルデン氏の新作「ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー」である。これは2008年に米国、サンフランシスコ・バレエ団の演目として制作され、それをクリストファー氏がロイヤル版に見事リメイク。

衣装はコスチューム・デザイナーのジャスパー・コンラン氏が手がけ、透明な生地に長方形のメタルが施されて、舞台のバックグランドや照明具合で、衣装の色も変化し、舞台セットとダンサーが更に一体化された上手い演出にもなっている。

またロイヤル・バレエ団を代表するプリンシパルダンサー、ワディム・ムンタギロフ氏、フランチェスカ・ヘイワード氏などを起用した豪華キャスティング。7組のトップダンサーによる華麗なコンテンポラリーダンスを堪能できる。7組それぞれにストーリーがあり、そのストーリーを抽象的に表現。異なるダンス、異なる表現法など、優雅で洗練された踊りは言うまでもない。クリストファー氏がこれを手がけた時に画家であるクリムトの作品を多く見ていたこともあり、そこからヒントを得たということだ。どのダンサーも素晴らしいのだが、あえていうならば、ワディム氏は一際目立って素晴らしかった。

ロイヤル・オペラハウス動画

「メドゥーサ」振付け:シディ・ラビ・シャルカウイ

Natalia Osipova as Medusa, Olivia Cowley as Athena, and Matthew Ball as Perseus in Sidi Larbi Cherkaoui's Medusa

(c)2019 ROH.Photo by Tristram Kenton.

Natalia Osipova as Medusa and Ryuichi Hirano as Poseidon in Sidi Larbi Cherkaoui's Medusa

(c)2019 ROH.Photo by Tristram Kenton.

Natalia Osipova as Medusa and artists of The Royal Ballet as Soldiers in Sidi Larbi Cherkaoui's Medusa

(c)2019 ROH.Photo by Tristram Kenton.

次に、ギリシャ神話に登場する蛇の髪の毛を持つ邪悪な「メデゥーサ」をテーマした作品は、シャルカウイ氏のロイヤル・オペラ・ハウスでのデビュー作となった。今まで550以上の作品を生み出し、世界各地のバレエ団とのコラボレーションをはじめ、日本では2011年に漫画家、手塚治氏の「鉄腕アトム」を元にダンスと漫画のコラボレーション舞台「TeZukA」(福島原発事故も意識)を成功させ、2016年には漫画家、浦沢直樹氏の「Pluto プルートゥ」(Bunkamuraとの共同制作)の演出と振り付けを行った。どちらの作品も人間が作り出す最先端のテクノロジーが制御不能となり、その後の人間の未来を映し出すような内容であり、各登場人物を取り巻く環境や心情までも上手く表現している。

そしてこのギリシャ神話を元にした作品「メデューサ」も神々の世界の話ではあるものの、私たちの生きている世界にも投影することができ、人間が持つ欲望、嫉妬、復讐、怒り等をフォーカスした作品になっている。シディ氏曰く、古代ギリシャ神話は常にアクションがあり、リアクションがあるという。これは全ての物事には原因があり、それに対しての影響が及ぼされ、結果に繋がるという捉え方ができる。また、この世は不平等であり、その理不尽な状況から脱却できず生きていかなければならない。そしてそれは自分の今後の人生にも影響する。権力を振りかざす者とそれに従わなければいけない者とのパワーゲームも表しいると。

主役を務めたナタリア・オシポワ氏とシャルカウイ氏とは他の作品でも共演し、彼は彼女のダンサーとしてのテクニックと表現力を高く評価しての今回の起用となった。巫女3人姉妹の一人であるメデューサ。穢れなのない、尊い存在から醜く邪悪なキャラクターへと変貌するさまは見事な者である。

また、プリンシパルダンサーの平野亮一氏はクリストファー氏の「ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー」でもフルに踊り、そしてさらにこの演目でも悪役の海の神、ポセイドン役で登場。メデューサはポセイドンに好かれ、犯され、そしてアテナナイキ神殿の神、アテナ(又はアテーナ)の怒りに触れ、メデューサは怪物へと変貌させられる。神同士はお互いを処罰しないため、人間の巫女である彼女を処罰。しかし怪物になったメデューサを退治すべく、多くの兵士が送り込まれ、兵士の一人であるペルセウス(マシュー・ボール)によって首を切断され、最終的に彼女の魂は自由になることができる。

シャルカウイ氏の舞台の素晴らしさは彼自身が優れたダンサーであるため、クラシックバレエやコンテンポラリーを習得しているのみならず、フラメンコや様々なダンスを知り尽くしているがため、ダンスの動きにもバラエティが生まれ、音楽の選択から舞台セットまで、総合的に全てを統括できる素晴らしい総合芸術家であるといえよう。また、バレエ演目では珍しくソプラノ歌手とのコラボレーションもあり、女性歌手の美しい歌声とダンサーの華麗な動きと舞台セットとストーリの流れが全て完璧にマッチした見応えのある作品であることに間違いない。

ロイヤル・オペラハウス動画

「フライト・パターン」振付け:クリスタル・ピテ

Artists of The Royal Ballet in Crystal Pite's Flight Pattern (c)2019 ROH.Photo by Tristram Kenton.

Artists of The Royal Ballet in Crystal Pite's Flight Pattern (c)2019 ROH.Photo by Tristram Kenton.

Artists of The Royal Ballet in Crystal Pite's Flight Pattern, The Human Seasons / After the Rain / Flight Pattern

(c)2019 ROH.Photo by Tristram Kenton.

Artists of The Royal Ballet in Crystal Pite's Flight Pattern, The Human Seasons / After the Rain / Flight Pattern

(c)2019 ROH.Photo by Tristram Kenton.

Joseph Sissens in Crystal Pite's Flight Pattern, The Human Seasons / After the Rain / Flight Pattern

(c)2019 ROH.Photo by Tristram Kenton.

最後は振付師、クリスタル・ピテ氏の「フライング・パターン」はタイトルからは想像も付かないほど、彼女個人の深い想いが込められており、音楽の選択からダンサーの動きまで、美しさの中に、深い悲しみと苦悩を感じさせる作品になっている。

元カナダのダンサーであり、1990年にプロの振付師としてデビュー以来、カナダやドイツ、フランスのバレエ団とのコラボレーションを行ってきている。数々の賞を受賞し、2017年に発表した「フライト・パターン」では3つのオリバー賞を受賞している。

この作品は彼女自身がどのように現代社会と向き合っていくかをコンテンポラリーダンスとして表現したものであり、日々起きている事象を話さない訳にはいかないと感じている。

音楽はグレツキのファーストムーブメントからシンフォニーNo.3を選んだ。その理由として丁度作品を手がけている頃、世界では深刻な人権問題、難民問題に直面していて、この音楽を聴いた瞬間、これが自分の作品の核となると感じたと。また、女性ソプラノ歌手による歌声も物悲しく、ダンサーの動きと暗い照明の舞台とマッチしていた。タイトルに含まれる「フライト」には2つの意味があり、「困難な状況からの脱出」と「希望と自由」である。

36人のダンサーを起用し、難民がどのように自由を求め新天地を目指すか、途中で溺れてしまう人や仲間を助ける人、子供を失う人など、様々な状況をダンサーの動きのみで表現。まるで1つのドキュメンタリー映画を見るようで、それはただ美しいだけの芸術作品ではなく、実際に起きている現実でもあり、観ている人々に強い印象を与えた。

ロイヤル・オペラハウス動画

今回のロイヤル・バレエ団による「トリプルビル」はまさに三種三様。3人の振付師による3つの全く異なったコンテンポラリーの舞台。いつものクラシックで魅せる舞台とは一味違うロイヤルバレエを楽しむことができるだろう。

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