top of page

家で楽しめるロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)のオンライン・ストリーミング!!

『さまよえるオランダ人』2015年

左:ブリン・ターフェル(オランダ人)右:エイドリアン・ピエチョンカ(ゼンタ)

©2015ROH. Photographed by Clive Barda



Royal Opera House Stream

Flying Dutchman 2015



このROHのオンライン・ストリーミング『さまよえるオランダ人』は、2009年のティム・アルベリーの作品を2015年に再演した時に収録されたものだ。


序曲が始まると、黒緑色の荒れ狂う海や灯台の放つ光、そして雨が降りすさび雲が流れる台風の不吉な空が舞台後ろに投影され、さまよえるオランダ人が漂流する険しい海と彼のすさんだ心を的確に表現していた。


マイケル・レヴァインのセットはミニマリストで舞台の後方が前方より上っていて、舞台の手前に水を湛え海辺の町および帆船が行く大海の中にいるような錯覚を起こさせる。そしてエイドリアン・ピエチョンカ扮するゼンタが裸足でぴちゃぴちゃと水に入ったり、舵手のエド・リヨンがふざけて水遊びして全身水浸しになったりと港町の風景を如実に表す。効果的なセットはそれだけではない。最後の場面では巨大なタラップを舞台上の左方に設え、船体自体はなくともさまよえるオランダ人の乗る幽霊船が停泊しているように感じさせると同時に、タラップが外れればオランダ人が永遠に去ってしまう緊迫感を自然と醸し出していた。そしてゼンタがタラップ上方に上っていくもののオランダ人に遮られ下ろされて取り残されてしまうと、船が去ってしまったという空虚で寂しい感情に劇場が包まれた。その他にも町の女性たちが働く工場は四角くて閉塞感を催させるセットで作られ、凡庸な制服に身を包んだ女性たちが所狭しとそこで働く姿は片田舎の貧しくてつまらない生活を物語る。


演出で愉快だったのは船員である夫や恋人が乗った船の帰りを待つ女工たちが、船が着いたという知らせを聞くや否や工場の地味な制服を脱ぎ捨て、男たちを挑発するような派手な格好に着替え煙草を吸いながら港に向かう姿である。田舎の単調で地味な暮らしと、男たちの帰りだけが唯一のエンターテイメントで、それを心待ちにしていた村の女達の姿が面白おかしく描かれていた。


コンスタンス・ホフマンのデザインした衣装は現実的でセンスが良く、特に海の男たちはオレンジや緑、茶色やベージュなど色は多彩だが、統一感のある衣装に身を包み、画一的な狭い港町をそれとなく示唆していた。


2015年にROHで上演された作品なだけに指揮者のアンドリス・ネルソンズが現在よりも若々しく指揮はライオンのような雄々しさがあった。そして彼が率いるROHのオーケストラは北の荒海の怒涛のようなワーグナーの音楽を海のうねりが聞こえてくるように生々しく奏でていた。


オンライン・ストリーミングの良いところはライブ公演と異なり、指揮者が正面から見られるところとオーケストラのソロ奏者が画面にクローズアップされてどの楽器の誰のソロかが良く見えるところだ。また歌手の表情また芝居の詳細が見えるところに、ライブとは異なる楽しみを見出せる。

オランダ人を演じたブリン・ターフェルは7年前の録画だけあり、若くてハンサムでセクシーで魅力のある放浪人だった。彼の伸びる声には惚れ惚れした。ノルウェーの船の船長、ダーラントを演じたバス歌手のピーター・ローズとターフェルのデュエットは低音の魅力が重なって心地よく、二人の歌声、そして音程は、安定していて安心して聞いていられた。ゼンタを演じたエイドリアン・ピエチョンカは幕が進むうちに本調子が出てきて高い音も難なく出してはいたが、なんといっても中音域の彼女の声が心に響いた。オランダ人とゼンタが一目ぼれで恋に落ちた時の顔が大写しになったので見つめあう二人の眼中に恋の炎が芽生える感じが手に取るようにわかり、ターフェルとピエチョンカの上質な演技に感じいることができた。マイケル・コニグはゼンタに振られてもしがみつくエリックの悲哀を迫真の演技で演じ、彼の声量あるテノールの声が胸に染みた。ワーグナーの書いた台本がエリックの気持ちを巧みに表現して言葉に重みがあったのも効果的だった。幕最後のゼンタ、エリック、オランダ人の3重唱では終わりにふさわしい緊迫感と悲劇の無念さが混ざりあい、音楽的に盛り上がりを見せたにもかかわらず、オペラの最後にゼンタが海中に身を投ずることなくただ模型の帆船を抱えて倒れたのは、期待外れだった。


オンライン・ストリーミングのもう一つの利点は自分が感じ入った場面は何度でも繰り返してみられるところだ。ぜひ冬休み前に登録し、クリスマスはストリーミング・オペラ三昧をしてみてはいかが?




ロイヤル・オペラ・ハウスのオンライン・ストリーミング‐世界一流のオペラ・バレエの公演がオンラインで観られます!www.roh.org.uk/stream




ROHが45作品以上の選りすぐりの公演をオンラインでお届けします。毎月新しい作品が随時足されていく上に作品以外にも80以上のインタビューや歌手達による裏舞台情報を収集したヴィデオが観られます。価格は、月々たったの9.99ポンドもしくは年間99ポンドです。



左:エイドリアン・ピエチョンカ(ゼンタ)右:マイケル・コニグ(エリック)

©2015ROH. Photographed by Clive Barda



左:ブリン・ターフェル(オランダ人)中央:ピーター・ローズ(ダーラント)

右:エイドリアン・ピエチョンカ(ゼンタ) ©2015ROH. Photographed by Clive Barda



エド・リヨン(舵手)©2015ROH. Photographed by Clive Barda



夫たちが帰港したと知り着替えた工場で働く女たち ©2015ROH. Photographed by Clive Barda



カラフルな水夫たちの衣装 ©2015ROH. Photographed by Clive Barda


bottom of page