ロイヤル・バレエ団『うたかたの恋(マイヤリング)』

26.11.2018

Mayerling. Steven McRae as Prince Rudolf. © Alice Pennefather ROH 2018

 

 

Royal Ballet ‘Mayerling’・Royal Opera House Live Cinema 2018/19

ロイヤルバレエ うたかたの恋(マイヤリング)

 

 

日本では12月7日より全国公開されるロイヤルバレエ公演『うたかたの恋』を試写会で一足お先に観賞してきた。今シーズン最初のシネマシーズン作品だが、今後の作品も今から楽しみになるほどの完成度と見ごたえのある、芳醇な3時間であった。

 

『うたかたの恋』はイギリスの誇る偉大な振付家、ケネス・マクミランのドラマティックで衝撃的な作品である。オーストリア=ハンガリー帝国のルドルフ皇太子と彼の若い愛人マリー・ヴェッツェラの心中事件「マイヤリング事件」を基にした本作は、美しくありながらダークで人間の本質をこれでもかと突きつけてくる。

 

主役であるルドルフ皇太子を演じたのはロイヤル・バレエのスーパースター、スティーブン・マックレーだ。繊細さと暴力性のふたつが渦巻き、徐々に狂気に陥っていく複雑なルドルフ皇太子役をマックレーは圧倒的なテクニックと丁寧な心理描写で見事に演じきった。特に2幕最後のマリー・ヴェッツェラとの運命の相手を見つけた勢いと情熱に溢れたパドドゥ、それを踏まえての3幕の狂気と官能が交じり合ったパドドゥは、息つく暇もないほど心が揺さぶられ見ている者に強い感情を訴えてくるすばらしいものだった。

 

ルドルフ皇太子のファムファタール、マリー・ヴェッツェラを演じたのはサラ・ラム。舞台に現れたときは恋に恋する可憐な少女が、ルドルフ皇太子と対峙することで破滅に向かってまっしぐらに進んでいく魔性の女を体現。ラムのルドルフ皇太子を迷いなくまっすぐ見つめる視線は、二人の間に起きた化学反応とその狂気性をよく表していた。

 

ルドルフ皇太子の元愛人であり、物語を影で動かしていくラリッシュ伯爵夫人はラウラ・モレラが好演した。モレラの伯爵夫人は、ルドルフ皇太子からの信頼とその立場を利用し賢く立ち回る姿と、それでいてルドルフ皇太子のことを未だに愛し慕っている矛盾した複雑な女性像を成立させていた。モレラの演技巧者っぷりと配役のすばらしさがこの作品により深みを与えている。

 

ミッツィー・カスパー役のマヤラ・マグリの華やかさ、シュテファニー皇太子妃役のミーガン・グレイス・ヒンキスの丁寧な表現、エリザベート皇后役のクリスティン・マクナリーの冷たい美しさ、それぞれがルドルフ皇太子の悲劇をより鮮明に際立たせている。

 

またシネマシーズンのもう一つの見所であるインタビュー映像は今回もとても充実していた。怪我から復帰するまでのマックレーの密着映像は、バレエダンサーの過酷さと凄まじい努力の上で成り立っている芸術であることを改めて教えてくれる。また一つの作品がどのように作られていくのかをさまざまな視点から紹介しているのも、とても興味深く映画館の観客を飽きさせない工夫に満ちている。これだけでも映画館に足を運ぶ価値があると言えるだろう。

 

『うたかたの恋』は今年40周年を迎えたが、センセーショナルで衝撃的な作品であり美しいだけではない作品だからこそ、多くの人たちに見てもらいたい作品である。インタビュー映像も含めて映画館へぜひ足を運んでほしいと思わせる素晴らしいクオリティであった。

 

Mayerling. Steven McRae as Prince Rudolf. © Alice Pennefather ROH 2018

 

 

 

Kana Hashimoto/橋本佳奈

1989年生

物書き見習い。元演劇制作者。専門はイギリスバレエ•演劇•ミュージカル批評。ロンドン留学時に3ヶ月で40ステージ以上のバレエを観たほどのバレエ好き。美しい衣裳とロンドンが大好物。http://bestest-k.hatenablog.com

 

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